基底層(胚芽層)stratum basale(stratum germinativum)
基底層(胚芽層)ケラノサイトの生誕地!
表皮の最も下層部にあるのが「基底層」です。
基底層は基底細胞1層から成っていて、基底膜上に配列し、真皮・表皮結合部を形成しています。
その形は立方体~円柱状をしていて、楕円形の核を持っているため、「円柱細胞層」とも呼ばれています。
基底層の細胞
基底層は
- ケラチノサイト(表皮角化細胞)
- メラノサイト(色素細胞)
- メルケル細胞
などで構成されており、ケラチノサイトの幹細胞は基底層で見つかります。
幹細胞
細胞の中には、生物が生きている間ずっと維持されるものもあれば、血液や皮膚、小腸の細胞のように速やかに置き換えられるものもあります。
表皮がスムーズに再生するのは、旺盛な増殖能と分化能を持つ幹細胞が皮膚にあるからにほかなりません。
有毛部では毛包バルジ領域に表皮幹細胞があり、手掌や足底といった無毛部では、表皮基底部に幹細胞が存在、生体内ではその再生能が最大限に発揮されるような場(niche)に幹細胞が置かれています。
多くの細胞は、一定の間生きて、そして死に、幹細胞集団から生じた他の細胞によって置き換えられるようにプログラムされています。
この幹細胞における調節機構は、現在大きな注目を集めています。
研究の目的には、細胞の分裂集団がどのように生み出され、維持されるかを理解することがあります。
その先には、組織の修復を行う可能性が明確に存在しています。損傷した眼、傷ついた軟骨、変性した脳組織、あるいは衰えた器官を回復させることです。
これに関する興味深い可能性の1つは、組織を作り再生させる潜在能力を持つ幹細胞集団が、通常は発生の後期に細胞死によって失われてしまうことです。
このような細胞死を選択的に阻止する方法を見つければ、再生はより行いやすくなるだろうと考えられています。
表皮幹細胞は毛包バルジ領域に存在しているため、真皮と毛包下部が残存しているような浅い皮膚欠損創の場合には、保存的治療を行っても毛包から供給される表皮幹細胞によって速やかに創閉鎖して治癒に至ります。
しかし真皮深部から脂肪や筋膜にまで及ぶ深い皮膚欠損創の場合には、毛包が存在しないため、周囲からの治癒を待つしかありません。
周囲からの治癒進展を待てないほどに広い面積の創では、自身の皮膚を薄く採取して移植する自家植皮による皮膚再建が試みられます。
バルジ領域の毛包幹細胞が内毛根鞘、毛包、視線、表皮に分化していくと考えられています。
基底層の働きターンオーバーのスタート地点としての基底層
基底層の中間径フィラメント
ケラチノサイト細胞質内に存在するケラチン中間径フィラメントは、疎らな束となって核周辺に分布しています。これをケラチンと言います。
ケラチン5(TypeⅡ), ケラチン14(TypeⅠ) がヘテロダイマー(4量体)を形成した状態で存在しています。
このケラチン中間径フィラメント(トノフィラメント) は隣接する細胞間のデスモソームや基底膜とのヘミデスモソーム、有棘層の細胞と結合し、細胞骨格を形成しています。
細胞が上方に押し上げられるにつれてケラチンは質・量ともに増大し、最外層(角質層)ではついに全タンパク質の半分を占めるまでに目立ってきます。
中間径フィラメントとは
中間径フィラメントは太さ約10nmのフィラメントの総称で、10nmフィラメントとも呼ばれます。
太さがアクチンフィラメントと微小管の中間(ミクロフィラメントより太く微小管より細い)であるために付けられた名称です。
タンパク質の自己会合と重合によって10nmのフィラメントが形成されます。
この意味では安定的というよりは動的な構造と言えます。
中間径フィラメントは分枝することなく、ほぼ直線上に、あるいはやや迂曲して走っています。
一般に比較的安定で強く、単独に走ることもありますが、集まって束を作ることも多く、最も安定していて、最も溶解しにくい細胞骨格です。
なお、中間径フィラメントは、その構成タンパク質により次のような種類に分けられています。
- ケラチンフィラメント
- トノフィラメント(tonofilament)、張原線維とも呼ばれます。細胞質内に支持網を形成し、細胞間結合装置で細胞膜に付着します。
- デスミンフィラメント
- 筋細胞に存在。
- ビメンチンフィラメント
- 線維細胞のような間葉系細胞
- 神経フィラメント
- 神経膠フィラメント
中間径フィラメントは主として機械的支持に預かり、細胞骨格としての細胞の形の維持、核の位置の固定などの役割を持ちます。
基底層のケラチナサイト
栄養と酸素は真皮の血管から、血管のない表皮へと拡散します。
真皮の血管の最も近くにあり、拡散された栄養と酸素を受け取っているのが、基底層のケラチノサイトです。
毛細血管自体は表皮に入ってはいませんが、拡散によって栄養分と酸素が供給された基底細胞は、約20日ごと に有糸分裂し、角質細胞が生まれるため、角質細胞の代謝(ターンオーバー)のスタート地点でもあります。
細胞の誕生は、この基底層の様に特定の場所と時間だけで起こるよう注意深く制限されています。
ケラチノサイトの絶え間ない産生に応じ、ここ基底細胞では細胞分裂が繰り返されているのです。(一般的には 昼間より夜間の細胞分裂が活発であるとされています)
そのため、基底層は「胚芽層」とも呼ばれます。(基底層と有棘層を合わせて胚芽層ということもあります)
哺乳類の表皮としては唯一細胞分裂が観察される層で、分裂して基底膜との接着を失った基底細胞は上方に押し上げられ、有棘細胞、顆粒細胞を経て、角質細胞となり、最後には垢となって剥がれおちていきます。
表皮細胞の増殖は、表皮幹細胞から分裂した娘細胞である、transient amplilfying:TA細胞が原動力です。
表皮幹細胞は分化方向が決まった体性幹細胞で、毛包バルジ領域から表皮基底層に供給される経路が知られています。
表皮幹細胞の分子生物学的機構は、未だ十分には解明されたとは言い難いのですが、今後表皮幹細胞の多分化能を制御することによって、付属器を含む完全な皮膚の再生を目指すことができるかもしれません。
なお、基底層は傷を治す時も重要な役割をします。
メラノサイト
基底層の中に一定間隔で存在するメラノサイトは、真皮に紫外線がとどかないよう、色素(メラニン)を放出し、カーテンをひくように紫外線をブロックしています。
基底層・基底膜が衰えると、メラニンはその下の真皮まで落ちてしまうことがあります。これが「シミ」です。
メラノサイトの幹細胞はバルジ領域よりやや下の部位に存在しています。
メルケル細胞
メルケル細胞は、表皮細胞の中で最も数が少ない小さい細胞です。
大部分の皮膚には存在しませんが、指、口唇、毛管周囲の皮膚にしばしば認められ、見つけることが難しい細胞です。
表皮の最下層、基底層に存在する触覚受容細胞で、感覚を感知するトノフェラメントを有しており、デスモソームで周囲のケラチノサイトと接着しています。また、触覚に鋭敏な領域、毛包の基底部に局在します。
細胞質に、神経内分泌タイプの膜に囲まれた、特徴的な有芯顆粒(小胞)が多数存在し、感覚ニューロンの扁平になった突起と接触することで、そこに知覚神経終末(無髄神経)がシナプス接合されています。
感覚ニューロンによって受容した刺激を装飾するこの構造をメルケル盤と呼びます。
物理的刺激を受けると、この有芯顆粒から神経伝達物質が分泌され、知覚神経へ情報が伝わるようになっているのです。
この顆粒は、その形状と内容物において、神経内分泌性細胞の顆粒と類似しています。
ケラチン
単一の分子ではなく、複数の遺伝子に支配される分子量40~68kDのタンパク群の総称分子量や生化学的分析によって20種類から30種類ほどの異なるタンパクに分類されています。
水に不溶性で物理・化学的に安定であるために皮膚は強く、そして丈夫な状態を保てます。
ケラチンタイプの表を入れる。